「自己愛」

 

忘却している彼の心を、反芻する。生まれている自分の起源を、反芻する。

彼自身も気付いていない、彼自身が忘れているその心を、言葉に紡いで、心の中で反芻する。

 

「自己愛」

もう一度。

だからこそ彼は他人のために足掻くのだと、改めてそう思う。

自分を愛していないから、他人を愛するしかなくて……

自分を愛していないから、他人を一番に据えるしかなくて……

そうして生きている彼を、少しだけ、愚かだと思う。

いや、訂正。

かなり、愚かだと思う。

だって自分は、その彼が忘却している感情こそが、起源だから。

 

だから自分は、自分が大好き。

彼なんて二の次。

他人なんて三の次だ。

 

「自己愛」

 

何とはなしに、最後にもう一度、駄目押しで呟く。

ただ静かに、何とはなしに、呟いた。

 

彼の絶叫を耳に残しながら。