僅かな時間の邂逅。

 長い長い思い出は、短い短い現実時間で果てを見た。

 でもその短い時間、僅かばかりの時間でも、周はその思い出を邂逅してはいけなかった。……精神面からくる身体障害が訪れるから。周にぃと会う以前の伊沢彩陽以外の過去は全て、辛い思い出だから。

 

 動悸が激しくなる。酸素が不足する。異常に汗が出る。力が抜ける。

 それら全ての障害が、悪霊と周の立場を逆転させる。

 力の抜けた、押さえつけられていた腕を振りほどき、身体を抜け出される。意識が半ば朦朧としている周は、それに対応できない。

 そしてその隙を逃さす、軸足を作って躯を回転。周の後ろに回りこみ、後頭部を握り、壁へと押さえ込む。

(……形セいギゃく転だナ)

 その悪霊の言葉に周は言葉を返せない。いまだ身体の障害から回復できていないから。

 ……しかし、彼は見た。偶然とはいえ見てしまった。

 身体に障害が及んだ副産物、とでも言うのだろうか。不調を感じたその瞬間、この悪霊の核ともいえる霊体が、この目に映った。

 今の様な、様々な霊体が混じり合った姿じゃない。混じり合う前……いや、そのさらに前――霊体になりたての頃の彼を。

 だから周は、いくら心臓が暴れ回ろうとも、いくら呼吸をするのが辛かろうとも、いくら殺される寸前であろうとも、いくら身体に力が入らなくとも、この霊体に声をかけないといけなかった。

 

 だってその霊体は――

「君は、その幼さで、どうして、死んでしまったの?」

 ――子供だったから。まだ美喜と同じか少し上ぐらいの子供……少年の霊体だったから。

(……えっ?)

 息絶え絶えの周の言葉に、悪霊が疑問の声を上げる。

 だがその声は、今までのような複数の声が混じり合った音の様な声ではない。

 ただただ普通の、声変わりもしてない、男の子の声だった。

「その姿、その年、まだ子供の、ソレだ。それなのに、どうして、こんなに人を、殺してた?」

 続く周の言葉に悪霊は……いや、少年の霊体は、周への拘束を解き、後ろへと後ずさる。自分を見透かされた驚きからか、それとも別の理由からか……。

 だがその姿を再び組み伏そうと、周は思わない。だって今、彼の目の前にいるのは、悪霊なんかじゃない、ごくごく普通の少年だったから。見た目はそのままだが、中身は子供のソレだったから。

(……どうして、そんなことを聞く?)
「君のことを、知りたいから」
(……どうして?)
「友達に、なりたいから」
(……友達?)
「そう。僕は、君の様な存在に、なってしまった人と、友達に、なりたいから」

 ……あの時――周が一度、この悪霊を押さえつけたときにもした、どうして人を殺していたのかという質問。

 あの時はただ、事情を聞き、未練を知り、その未練を果たさせることで成仏させようとした。

 悪霊と言う存在であろうとも、様々な霊体を吸収していようとも、未練が無くなれば成仏する。それこそが、周が唯一出来る“霊”を成仏させる方法。だが周にしか出来ない、“霊”を成仏させる方法。だからソレを果たそうとした。

 結果的に悪霊を救ってしまうことにはなるが、そうすることでしか、自分は死なずに悪霊を消滅させる手段が無かったから。彩陽への復讐を果たせないから。彩陽を救うことは、出来ないから。

 

 あの時は、悪霊を救うことになるという結果に抵抗があった。

 でも、今は違う。

 今はもう、抵抗も何も無い。

 こんな子供がどうして人を殺すことになったのか……その本当の理由が知りたい。

 そして、救ってあげたい。

 心から。

 

 そう思う周の気持ちは、もしかしたら自分と似通う部分を感じ取ったからなのかもしれない。

 仕方無しに救おうと思っていた彼の気持ちが変わるほどの何かが、この少年にはあったのかもしれない。

 ……でもこれは、全て仮定の話。確定情報は何も無い。だがこれで――

(アンタは、聞いてくれるのか? ボクの話を)

 ――話してくれたなら、その仮定は事実だということ。

 だってそれだけ、この少年には、周が変わったということが伝わっているから。あの時言い淀んだこの男の子の気持ちが変わるほど、周の気持ちが変わり、ソレが伝わったと言うことだから。

「もちろん。聞かせてくれ、お前の未練を。……お前が、霊体になった原因を」

 

 

 

 未練……なんて、大それたものじゃない。ただこれは、ボクが弱かっただけの話。

 ……そう、それだけの話なんだ。

 

 ……生まれてきた時はたぶん、沢山の人に囲まれてたと思う。病院の先生、看護婦さん、お父さんにお母さん。ボクが思いつくだけで四人。

 だから本当は、もっといたと思う。

 

 ……小学校に上がる時、ボクの両親はボクを捨てた。お父さんの借金が重なって、ボクを置いて夜逃げした。

 まぁその後は、親戚の叔母さんに預けられたから、一応衣食住には困らなかった。

 でも……その代わりにそこの叔母さんは、ボクを邪魔だと思ってたからなのか、とても酷い仕打ちをしてきたんだ。

 ……それで小学校二年生に上がるまでの約一年間、ボクはイジメられてた。

 親に捨てられた存在だからって。

 爆発的な暴力から陰湿的な暴力まで、全部をこの身に受けた。何もしてないのに殴られ、靴を隠され、見つかってもゴミまみれで、机をどこかに追いやられ、中身は全部燃やされてて、その全部を先生は見て見ぬフリを決め込んでて……。

 ……さらに、それだけのことをしておきながら、ボクのことをいないものとして扱ってくる。話しかけても、声をかけても、誰も見向きしてくれない。

 イジメに挫け、泣いてしまっても、クスクス笑うだけで大笑いして追い詰めてこない。悪質なイジメと陰湿なイジメ……ボクを攻撃しておきながら、ボクをいないものとして扱う。……それは肉体的にも精神的にも、ボクを壊していくには十分だった。それでも、ボクを引き取ってくれた叔母さんに相談しても、そんな扱いされて当然だと言ってくるだけで何もしてくれない……。

 

 そんな、家に帰ってもイジメられ、学校にいてもイジメられる毎日。

 ……正直、ボクの心は限界だった。

 こんな、ボクをイジメる世界に居続けるのが、限界だった。

 幸せを少しも感じないこの世界で生き続けるのが、限界だった。

 

 だから、生きる続けるのが何よりも辛かったから、死ぬことで楽になろうとしたのは当然だと思う。

 壊れかけの自分を自分で壊すことで楽になろうとしたのは当然だったと思う。

 

 だからボクは、ボクという存在を不要だというこの世界から、消えることにした。

 

 ……ボクは……学校の屋上から飛び降りた。

 ボクのことを邪魔だというこの世界から、羽ばたくため。

 羽ばたいて、飛んで、いなくなるため。

 

 ……当然、未練なんて無かった。

 こうすることで、ボクはこの世界よりも楽な世界に行ける。

 行けなくても、ボクという存在が消えるから、辛い思いもしなくて済む。

 

 ……でも……せっかく生まれたんだから、せめて友達ぐらい作りたかった。

 一緒に遊びたかった。一緒にバカしたかった。一緒に勉強したかった! 一緒に……生きていきたかった……! 

 

 ……死ぬ直前にそんなことを思うもんだから、ボクは死にながらもこんな世界に残ってしまった。

 この、ボクを不必要だと言う世界に。

 ボクを排除しようとする世界に。

 

 ……それからは、自分の葬式を見て、ボクをイジメてた奴が笑ってるのを見て、叔母さんがうれしそうにしているのを見て、どうしてボクをこんな体にしてまでこんな場所を見せるのかと世界に怒りを覚えて……そんな世界に住む人たちに怒りを覚えて……自分の姿がわからないのを良いことに、ボクはそんな人たちの中に入って、色々な人を殺して……スゴイ気持ち良くて……

 気が付いたら、次々と殺しに掛かっていた。

 

 

(それがボクの今までだ)

 そう話を、締め括る。

「…………」

 その話を聞いた周は、無言。

 黒い塊と化した男の子を見つめながら、無言。

 そこにどんな感情が渦巻いているのかは分からない。

 でもその話は、あまりにも周本人と似ていた。

 そしてそれは、彼本人が感じ取ったモノが、真実だと告げていたということに他ならなかった。

 

 愛情をくれる人達からソレをもらえなかった自分、愛情を捨てられた彼。

 気味悪がって周囲に壁を作られた自分、存在を否定されるように周囲から攻撃をされた彼。

 そして、世界が何を求めているのかを作った自分と、世界に否定された存在だと決め付けた彼。

 言葉にすると違う。

 でも根本は、どれも同じ。

 成長して分かれた枝が、偶然にも違うだけ。

 それはつまり、自分も彼のようになっていた可能性があるということ。

 それ程までに、自分と彼は似ている。

 まるで、別の選択肢を選び続けた自分を見ているような、そんな錯覚をしてしまう程に……。

「それじゃあ、僕と友達になろう」

 だからこれは、本心からの言葉。

「僕と一緒に遊んで、バカなことして、勉強して……生きていこう。僕は、僕自身が死ぬまでか、君自身が成仏できるまでは、ずっと傍にいるから」

 

 続く周の言葉に、男の子は無言。

 黒く塗りつぶされたその表情はわからないが、動揺している雰囲気はある。

(……どうして?)

 その男の子の声は、若干、震えていた。

「何が?」
(どうしてボクに、そこまでする? ボクたちは殺し合っていた程の赤の他人だ。それなのに、どうして?)
「……君があまりにも、僕と似ているから。……ただの自己満足だって言われればそれまでだけど、僕はどうしても、君を救いたい。だから友達になりたい」
(……友達って……そうやってなるものなのか?)

 今まで友達を作ったことが無い彼だからこその、悲しい質問。

 その問いに周は、微笑みを浮かべながら答える。

 いつかの過去に、あの少女へと答えたように。

「どうやってなるかなんて関係ない。自然と出来ることもあるし、こうやって宣言して出来ることもある。ただ最後に、どうして友達になったのか? って理由がなくなるほど仲良くなってれば、それで良いんじゃないかな」

 そう。美喜の時と同様、始まりなんて関係ない。

 たとえこの友情が打算まみれで始まっていようとも、長い年月を掛け、忘却し、仲良くなった答えが見つからないほど仲良くなれば良い。

(でもボクは、沢山の人を殺した……)
「それで?」
(えっ……?)
「それがどうしたって言うんだ? だって今の君じゃあ、その罪を償うことなんて死ぬこと以外で出来ないだろ?」
(……うん)
「だからと言って、君がそのまま死ぬのが正しいと、僕は思わない。確かにソレで事件は解決するかもしれない。……でもその果てに、君の幸せはあるのか?」
(っ!)
「どうせ死ぬなら、満足の良く死に方をしたいだろ? 少なくとも僕はそうだ。さっき話しただろ? ……だから君も、死以外で償えない罪を背負ってはいるが、だからと言って幸せになってはいけないなんてことは無い」
(そう……なのか?)
「そうだよ。だって君は、僕の“友達”だから」

 それは現実の人間には、掛けられない言葉。

 だって現実の人間には、他の人間が作った法律で罪を償えるから。

 でも彼は……この男の子は、あくまで霊体だ。

 罪を償う方法なんて死ぬ以外に無い。

 だったらせめて、幸せになってから死んでもいいじゃないか。

「僕の“友達”は、全員が幸せになる権利がある」

 周はそういうと、右手を差し伸べる。

 握手を求めるように。

(……でもそんなことをしたら、アンタに迷惑が……)

 その手に戸惑いながら、男の子はそう呟く。

「生前、君は不幸のどん底にいた。でも僕がほんの少し迷惑を被るだけで、ソレ以上の幸せをあげられる。どん底から引き上げて、幸せと言う大地を見せてやれる。そんな絶好の機会を、逃す必要が何処にある? 今から君は、僕と共に生きていく。それ以外のことは、考えなくても大丈夫なんだ!」

 さぁ! とばかりに、さらに手を差し伸べる。

「それに君が僕の友達になり、幸せになり、人を殺さなくなれば、結局事件は解決するじゃないか」

 周はそう付け加え、力強い瞳を携えて、彼を見た。

(……きっかけを忘れてこそ、本当の友達なんだよな?)

 その手を眺めながら……でも戸惑いをなくしながら、そう周に問いかける。

「ああ」
(それじゃあボクは、友達になれないかな)
「どうして?」
(だってこんなにうれしいこと、忘れられるはずがないんだから)

 言って、黒い手で周の手を握り返す。

 その顔にある口の部分には、黒が切り抜かれ、微笑が携わっていた。

 そんな彼に周は、うれしそうに言葉を返した。

「たとえそう思っていても、この記憶が薄れてしまう程のさらにうれしい体験を、君には味合わせてやるよ」

 

 

 

 突然だった。

 手を握り合い、離した瞬間、彼が苦しそうに胸元を押さえて倒れた。

 足をもつれさせ、階段を数段転げ落ち、うずくまり、何かが胸につっかえているのか、無理矢理にでも吐き出そうと、静かに、でも激しく暴れている。

 

 突然のその行動に周は、呆気に取られていた。

 声をかけることも出来ず、ただ呆然と見下ろしているだけ。

 あまりにも規格外な行動に意識がついていけないのだろう。

 それほどまでに、突然の出来事。

 

 ――おいっ! 大丈夫か?!

 

 ――そう声をかけようとしたその瞬間、彼の切り抜かれた口から、黒が吐き出された。

 闇の様な黒。

 それが次々と、吐き出されていく。

 ……異様な光景だった。

 ただ何かを嘔吐しているだけなのなら、異様でも何でもない。だがその吐き出されていく黒が、スライムのような半固形物で、階段の壁を這い伝い、上についてからは這い伝わることもなく、次々と重力に導かれるように下へと落ちていく。

 自らを外へと解き放っていくように、全てを託して。

 

 ……そんな光景がしばらく続いて、ようやく全てを吐き出し終えた頃。荒い呼吸を繰り返す彼の姿に、すでに黒いものは無く……あるのは年相応の見た目だけ。

 

 美喜よりも少しだけ上に見える外見。幼さがありながらも、大人になっていく過程である顔立ち。……等身大の彼の姿が、そこにはあった。

「おいっ! 大丈夫か?!」

 先程呑み込んでしまった言葉をようやくかける。

(だい、じょう、ぶだ……)

 荒い呼吸を繰り返しながらも、周の質問にそう答える男の子。周は彼を支え、何とか壁にもたれかけさせるように座らせる。

 そこまでしてようやく、下に落ちていった黒の塊を見下ろす。

 

 ……混沌という言葉を形として表現し、塊にしたようなものが、そこにはあった。

 見ているだけでどことなく不快な気分になるその姿は、落ちた一面の地面を黒く染め上げ、さらにその広さに比例するかのように大きく、この周がいる住宅の五階までの高さは裕にあった。

 そんな大きな、混沌の塊。

 常に形を変化させているかのように蠢く(うごめく)その姿は、不気味を通り越していた。だからこそ見ているだけで不快な気分にもなるし、嘔吐感も出てきてしまうのだろう。

「……赤城君、アレが何かわかる?」

 階下からの足音と共に現れた冬子は、周の姿を見つけるや否や、開口一番で本題に入ってきた。相変わらずの無表情淡々口調で。

 事情は知らなくとも、あの存在が危ないということが容易に想像できるからであろうその行動。だから周も、すぐさま自分の知っている情報を明かす。

「……実物を見るのは始めてかな……聞いたことぐらいならあるけど……」
(それって何? 周お兄ちゃん)

 周に短剣を投げ渡した後に合流していたのだろう。冬子と一緒に駆け上がってきた、彼女の隣にいる美喜がそう訊ねてくる。

「……霊体とか色々な話を聞いたときに教えてもらったことなんだけど……大量の霊体を吸収した悪霊の核が何らかの原因でいなくなった時、すでにその中にいる霊体全てが悪霊と同じ志を持っているものだけになっていたら……その存在は悪霊ではなく、現象にまで昇華してしまうって」
「現象?」

 聞きなれない単語なのだろう。冬子が訊ねてくる。その声に、階下に向けた視線を逸らさず、周は自らの知り得る限りを答える。

「そう、現象。……例えば、霊体も悪霊も何も無いのに、そこを通るだけで不幸になる道とか、そこに住むだけで自殺願望に襲われる家屋とか……そういうものだよ」
「でもそれは、風水的な何かじゃないの?」

 世界の気紛れとも言える様々な要因により、力・運・霊の集合場所などに及ぶ力を風水と呼ぶ。

 そしてソレらを読み取るのが、世間一般で言う「占い師」やら「風水士」。細かい違いはあるものの、今はその説明を省略。

「……風水的な何かにまで変化するから現象なんだよ。言わば、人の魂が世界に干渉してるんだ」
「どういうこと?」

「時間が無いから手短に言うけど、風水って言うのは専ら(もっぱら)世界の気紛れなんだ。人の意思なんて微塵も介入せずに発生する事象のこと。
でも現象は違う。
人の魂――人の意思のみで起きる、風水とはある意味まったく逆な事象のことなんだ。
つまり風水は気紛れ故、すでに変化する。こうして話している間にも常にね。故に一時的に不幸な道が出来たり、霊体が集まりやすい土地が出来たりする。でも現象は人の意思が固定されるから、変化しない。常な不幸な道が生まれたり、霊体が集まりやすい土地になってしまったりする。
風水は一時的なのに対し、現象は半永久的なんだ。
だからこのままアレを放置してたら、この土地だけが悪運に見舞われる。……しかも性質(たち)の悪いことに、アレも世界が起こす事象の一つに数えられるから、世界の気紛れである風水でもどうしようも出来なくなるんだ。もちろんそれは、人の力じゃあどうすることも出来ない。藍島さんのような戦闘者(バニッシャー)でも、ましてやその下の除霊師でもね」

「……つまり、あのまま現象にまで昇華してしまえば、この土地が悪運に見舞われるのを放っておくしかないということ?」
「そういうこと」
「解消する手立てが――」
「なくなる。……もっとも、魔法使いの誰かが住んでくれれば、何とかしてくれるだろうけど」
「魔法使いって……そんな現実逃避……」
「まぁそうだね。だからま、まだ悪霊の要素が残っている間に、アイツを何とかしないとね」

 そう話している間にも、黒の塊は小さくなっていく。

(周お兄ちゃん、アレ小さくなっていってるけど……)
「ん? ああ、そうだよ。あのまま小さくなって僕達の目で見れなくなったら、悪霊としての性質が無くなって、さっき話した現象に成り果てたってことになるからね。それまでに何とかしないと……」

 美喜の疑問に答えながら、周は考える。

 

 ……そう、このまま小さくなって見えなくなったからって、消えてしまうわけじゃない。

 あくまで見えなくなるだけ。

 世界の一部に無理矢理にでも成ったから。

 さすがの僕の目でも、ソレを見ることは出来なくなるだろうから……それまでに何とか……。

 ……でも、それはつまり、アレだけ強大な悪霊と戦うということ。この男の子に殺された霊体全ての悪霊と、戦うと言うこと。

 ……何人殺して何人吸収したかは、この際問題じゃない。彼に賛同した霊体全てが、その核本体だった彼が抜けたことに怒りを覚え、分離した姿。

 それがアレ。

 そうして分離し、全ての霊体が元々持っていた、彼に殺された恨み、霊体になるという世界の仕組みへの恨み、バラバラの未練だが叶えられないという共通した恨み。

 それら全てが増幅している。前述した怒りによって。

 ……ちょっとしたダメージだと、効果が全く無いと見て間違いない。むしろ、男の子の時と同じで、邪魔されたことへの怒りで瞬間的な威力が上がると見て間違いない。

 それなら……どうする? 

 どうすれば、アレを消滅させることが出来る?

 

 

 

あとがき:
周と悪霊が仲良くなる話ー
それと悪霊から少年の霊体へと変わる話ー
それら二つの出来事を含めた上での今回のタイトル「昇華」です

周は現象に成るということを知っていたのに、どうして黒の塊を吐き出したときに驚いていたのか?
それはまぁ簡単に言いますと、彼自身がそうなることを忘れていたこと。それと実物を見たのは始めてだったからです
矛盾の発生がそろそろ見られてきましたかなぁ……もし見つけたら報告してください
随時訂正を加えていきたいと思いますので

今回もまた「風水」とか「現象」とかややこしい説明を増やしてしまった……
こんな専門用語的なものが多かったら話がごっちゃになっちゃうのにね……ホントごめんなさい