チャイムの音が、鳴り響く。

 いつもは授業の開始と終了に鳴るその音も、今は戦いの始まり一分前を告げる音となっている。

 だがどちらにせよ、慌(あわただ)しい空気になることに変わりはない。

 

「さぁてと……皆、準備万端か?」

 

 教室の中、学ランを脱ぎ捨ててストレッチを繰り返していた紅先輩からの言葉。

 

 作戦の説明をつい五分前に終えたオレ達は、今回は激戦になるだろうからと事前に筋肉を温めておくよう指示された。

 

「もちろんで〜すよっ」

「万全です」

 

 二人で協力し合って身体の筋を伸ばし合っていた蒼莉さんと麻枝の返事。

 

「オレも大丈夫です」

 

 それに続くように、最後の仕上げとばかりに足の屈伸運動をしながらオレも返事をする。

 ……大丈夫。運動中も常に、頭の中で何度もイメージトレーニングを繰り返した。作戦の順序も、もし破られた場合に必要最低限こなさなければならない事項も、全て頭の中に入ってる。

 ……大丈夫。弱いオレでも、やれる。

 

「よしっ! なら特別言わんといけないこともないかな」

 

 扉の前に皆で集合し、昨日と同じ紅先輩を先頭にした並びになる。

 

「でもそうだな……これぐらいは、言っておこうかねぇ」

 

 オレ達に振り返ることも無く、扉を見据えたまま何かを考えるように視線を僅かに上げ、顎に手を当てたまま紅先輩は言葉を紡ぐ。

 

「俺達は、絶対に負けない!」

 

 ピイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーー……!

 

 その言葉を合図にしたかのように、争奪戦開始の笛の音が鳴る。

 その音に紛れて、最後の「ってか」と呟いた言葉は掻き消された。

 

 が、そんなことはもう、正直な話どうでも良い。

 だってこっから先は、争奪戦だから。

 

「……ふ……っ!」

 

 静かに気合を入れ、目の前のドアを開けて一斉に外へ出る皆について出る。

 

 ……まず目に付いたのは、濁った灰色の空。

 人の不幸と嘆きを凝縮したかのような、見ているだけで気の重くなっていく色をした空。

 食い入るように見つめていたその何とも言えない空を視界から外し、下を見る。

 するとそこには、さらに不幸を増長させる景色。

 傍らに上半分の瓦礫が積み上げられた高層ビル、根元から折れて全てが瓦礫と化しているビル、辛うじて全ての姿が残っているものの、窓ガラスが悉く(ことごとく)割れてツタが這い渡ったビル。

 ……砂埃とコンクリートの破片で出来たカーペットを敷いた道路。ドミノ倒しでもしたかのように連続して倒れた電柱。干物のように垂れ下がった電線。点灯することを許さない崩れた信号機。

 ……まるで、大地震にでも襲われたかのような、上空から爆撃されたかのような、天災とも人災とも判断がつかない、この世の地獄と表現しても間違いじゃないような場所。

 それがココ――今回の戦場だった。

 

「…………」

 

 あまりにも衝撃的なその景色に皆が目を奪われ、争奪戦だというのに佇んで見入ってしまう。

 挑まれた際の戦場選びもこうして相手の隙を作る一つの要因になるのかと、妙に冷静に考えているもう一人の自分が頭の隅にいた。

 

 ……不意に、背中の中心から瞬間的に蟲が広がっていくようなゾクゾクとした悪寒。

 これはそう……鳥居の見えざる刃を避けていた時に感じた、イヤな予感。

 その正体を突き止めるべく、慌てて周囲を見回す。

 こういう時の悪寒が当たることは前の争奪戦で既に分かっている。気のせいだとしても警戒しておくことに越したことは無い。

 もしかしたら敵が近くにいて、オレ達を狙っている可能性も大いにある。

 

 と、見回した時に映った紅先輩の姿。彼は前方の“ある一点”を見つめている。

 あまりの空に呆けている……訳ではない。空の一点を見つめて――いや、空の中にある“ある一点”を探しているような、そんな感じがする。

 何を探しているのか気になり、オレも同じ方向へと視線を向ける。

 瞬間――

 

「「避けろっ!!」」

 

 ――オレと紅先輩の声が、重なった。

 

 空を見上げた瞬間、背中の悪寒を一層強く感じた。

 絶対に何かあると思ったから、何があるのかの判断をする前に叫んでいた。

 

 紅先輩はすでにその「何か」が見えているのか、オレ達の叫び声に驚いて身を竦ませている蒼莉さんの手を取り、オレ達がいる場所から大きく離れるように一番近い道路へと跳ぶ!

 その間にオレも麻枝の手を取ろ――うとして、彼女との距離が意外に離れていることに今更ながら気付いた! このままじゃあ彼女が「何か」に襲われてしまう……!

 ……クソッ! 仕方ない! 一撃でやられるよりはマシだろっ!

 

「っ!」

 

 背中を思いっきり押してこの場所から無理矢理離れさす。

 無表情ながらも苛立ちを含んだ視線を向けられるが、そのことに言い訳をする暇もなく、オレもまたその場所から離れるために一番近い道路――紅先輩達とは逆の方向へと思いっきり跳ぶ。

 

 ……刹那、オレ達が立っていた場所が爆発した。

 いや正確には、爆発させられた、というべきか。

 

(くっ……どういうことだっ!?)

(おそらくは敵の妄想能力だろう)

 

 いまだ震える空気と爆音の中、飛んでくる破片を申し訳程度に腕で防ぎながら全員を対象とした脳内会話を急いで送ると、いつも通りじゃない口調の紅先輩から早速返事がきた。

 

(見えたのか?)

(僅かに矢のようなものが見えた)

(矢? ってことはこんな爆発を起こした奴の妄想能力は「着弾と同時に爆発する矢を放つ」とかか?)

 

 だとしたら反則にも程がある。

 

(……さすがにそこまでは分からんが、一つだけ確実なことはある)

(確実なこと?)

(飛んできた方向の射線軸には立ち止まらない方が言いということだ)

 

 その言葉を合図にしたかのように、再び同じような爆発が起きた。

 さっきの着弾点から上がっていた土煙が一気に晴れるほどの爆風が再び――ってあの場所は……さっきの着弾点の少し前……? ……麻枝を突き飛ばした方向!? まさか、麻枝を狙った射撃っ!?

 

(おい麻枝! 大丈夫か!?)

(…………)

 

 ……くそっ! 麻枝へ送った脳内会話に返事が無い……! もしかして……っ!

 

(おい麻枝! 麻枝! 大丈夫なら返事をしろっ!)

(…………)

(おいっ! 麻枝っ!)

(……大丈夫だから、少し静かにして。うるさい)

 

 オレの焦りに反した冷静な声が頭の中に響いた。思わず安堵のため息が漏れ出る。

 

(良かった……)

(すぐ横の建物の中に逃げ込めたから、少し爆風にあてられただけで済んだ。傷は特に無いから大丈夫。……にしても峰君、避けさせるならもう少し上品にして頂戴。突然背中を押されて体勢が崩れたから、さっきの攻撃避けるのに苦労してしまった)

(……申し訳ない……)

 

 まさかここでさっきの文句を言われるとは思ってもいなかった。言い方は相変わらずだが、ちょっと不機嫌なような気もする。

 

(よし、麻枝も大丈夫なようだな)

 

 またまた紅先輩の声が頭の中に響いてくる。

 

(それでは、相手に先制を取られてしまったが、作戦の続行は可能と判断する。俊哉は麻枝と合流。俺とアオは妄想能力を駆使し、作戦を進めながらも矢と敵の妄想能力を探っていこう)

(わかった)

 

 紅先輩の言葉に返事をしつつ、自分がどう動くべきか頭の中で組み立てる。

 

 とりあえずまずは、麻枝と合流しないことには話しにならない。……オレ達四人が出てきた初期位置は、車一台がようやく通れる広さをした、ビルの壁で作られた十字路の中心。最もそれは麻枝が逃げた道にのみ言えることで、オレと紅先輩達が逃げたこの道は、ちゃんと二車線分の広さがある。もし矢が飛んできたのがこの方向からなら、逃げる手立てはなかったかもしれない。……いや、今はもしもの話じゃない。麻枝がどこに逃げたかだ。

 

 彼女は近くの建物の中に、と言った。その言葉と突き飛ばした位置を考えると……今オレの目の前にそびえ立つ、広くて低めの上部分が倒壊しているビルの中だろうか……? 一応ここから道路を挟んだ向かいに建ってるビルって可能性もあるにはあるが……矢の射線軸に立つなと言われた以上、そちらに逃げ込まれたのなら紅先輩達に保護を頼むしかなくなる。

 

(麻枝……大丈夫か? もし余裕があるなら、建物の中でお前の妄想能力を使って欲しいんだが)

 

 とりあえずは建物の中で大きな物音さえ立ててもらえれば、この建物かどうかぐらいは判断が出来る。

 

(……そうしてあげたいのは山々だけど、ちょっと無理みたい)

(は? どういうことだ?)

(……目の前に、敵が現れた)

(っ……!)

 

 麻枝のその言葉に、慌てて彼女と視覚共有を行う。するとその眼前には、建物の入り口を背に立つ、一人の大柄な男子生徒の姿があった。

 紅先輩と同じぐらいの身長、でも先輩以上に広い肩幅と胸板。

 学ランを脱ぎ、カッターシャツをズボンから出しているその姿は、まるでその腹が大きすぎてカッターシャツが収まりきらない人のよう。

 スラッとしたカッコイイ長身の紅先輩とは違う、縦にも横にも大きくゴツい体型をしたその男。

 

「ヒヒッ……! まさか女の子と戦うことになるなんてね」

 

 そいつの体型に見合った大きな顔が、ニタリとしたイラッとくる笑みを浮かべてくる。

 

「ねぇねぇ、君の名前って何ていうの? 俺は白沢捺って言うんだけどさ」

「……あなたに私の名前を教える義理は無い」

 

 不快な声に対し、麻枝は相変わらずの静かな口調で答える。

 

「そう言わずにさぁ、ヘヘッ、名前ぐらい良いじゃん? 何も携帯の番号とかアドレス教えてって言ってんじゃないじゃん?」

「…………」

 

 その言葉に麻枝は、無言で妄想付具を具現化し、片手で構える。

 

「うっわ、いきなり敵対行動だよ」

 

 何がおかしいのか、ニヤついた笑みを浮かべたまま、白沢もまた妄想付具を具現化し、片手にぶら下げる。。

 

「まっ、どうでも良いけどさ。そんなことより突然話し変わるけど、妄想能力とか付具で倒された人ってどうなるか知ってる? あ、もちろん知ってるか。気絶しちゃうって事。ギヒヒッ。でね、じつは気絶してる間って、何でもできるんだよね」

 

 その、おかしそうじゃなくて、ただ単純に嬉しそうに言ってきた言葉に、当事者でもないオレがカチンときた。

 

「身体に物理的な傷つけたら争奪戦失格になるけど、要は傷さえつけなきゃ良いってことじゃん? ってことは、そのジャージを脱がしてからねっとりとその身体を眺めたり、脱がした服とかそのキレイな髪の匂いかいだり、その小ぶりな胸を舐めたり揉んだり下着の中見たり触ったりしても大丈夫ってことじゃん? ヒヒッ」

 

 その姿を想像しているのか、白沢は興奮気味に早口で言葉を紡ぐ。

 

「グヘヘッ……楽しみだなぁ……」

 

 ゾワリと、先程のイヤな予感とは別の寒気が背中を這い上がった。

 同姓のオレから見ても気持ち悪いその笑み。

 心底嬉しそうに、楽しそうに、息遣いを荒くして興奮しているその姿は、ただただ嫌悪を感じることしか出来なかった。

 

「……寄るな」

 

 ニジり寄ってきた白沢に、左手を突き出す麻枝。

 さすがの彼女も、その雰囲気と言葉にオレと同じ――いや、女子である彼女はオレ以上に嫌悪感を抱いたのかもしれない。

 だって……その声が、いつもの彼女よりも、震えて聞こえてきたから。

 

「ヒヘヘッ……そいつは無理だよ〜……だって近づかないと、君のキレイなむ、胸を、撫で回せないじゃん?」

 

 興奮のしすぎで言葉をどもらせながらも、ゆっくりと、追い詰めるような速度で、麻枝に話しかけながら歩き近付いていく気持ち悪い肉塊。

 

「……近付かせない」

「そんな悲しいこと言うなよぉ〜……大人しく俺に斬られて、無防備な痴態を晒せば良いじゃん」

「イヤ……あなたみたいな、気持ち悪い人」

「気持ち悪いかぁ……ジャージの色的に、君って一年生だよね? そんな子がさぁ、三年生の俺にそんな言葉遣いしていいと思ってんの? 思ってるよね? じゃあ……そんなダメな後輩は、先輩として矯正しないとなぁ……ギヒヒッ……! その、二度と逆らえない程の衝撃でさぁ……!」

 

 ニタリと、今にも舌なめずりしそうな気持ち悪い笑みを浮かべながら、男は詰め寄る速度を僅かに速めた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 そんな気持ち悪い会話を繰り広げさせられてる間、オレは何もしていなかった訳じゃない。視覚共有を行った段階で、回り込んでこのビルの中に入ろうと走り出していた。

 

 男の背中に見えた建物の入口。その後ろに見えたビルは、道路の向かい側にあるビル――つまり、紅先輩達側のビルだ。

 と言うことは必然、今オレが回り込もうとしているビルの中に、麻枝がいるということ。

 なら後は矢の射線軸に入らぬよう、麻枝が入った入口とは別の反対方向へと向かって別の入口を見つければ良いだけの話。

 少し遅くなるが、矢に穿たれて助けられないのに比べれば幾分もマシだ。……最も、こちらの通路側にはビルの中に入るための入口なんてまったく見当たらないのだが……。

 

(分かったことがあるから報告。皆、そのままの状況で聞いて)

 

 と、走りながら麻枝の状況を視覚共有している最中で、さらに冷静な蒼莉さんの声での脳内会話まで入ってきた。

 それでも自分の思考を続けることが出来、視覚共有の情報も入り続け、しかも脳内会話もちゃんと聞くことが出来て自分の身体も不備なく動かせて……と、四つ全てを並列に処理し続けられるとは……原理はまったく分からないが、便利でスゴくて不思議な状況だ。

 

(先手を打たれた矢についてです。まず矢が飛んできた方向には、まだ二つの敵の存在が確認出来ます。矢を放った存在と、こちらの居場所を教える存在です。本来の放てる矢は極普通の矢で、最初の爆発は既にそこにはいない三人目の妄想能力との合作でしかありません。よって、再び爆発を起こさせる矢が放たれることはありません)

 

 この僅かな時間に調べがついたのか……紅先輩の妄想能力こそ、じつは本当に万能なものなのではなかろうか……?

 

(ですが、危険な状況ではあります。矢を放つ男は、自らの視界内なら正確に放てるとの会話を盗み聞きしました。よって彼に見つかれば、すぐに矢が放たれると思ってください)

 

 なら今は大丈夫って事か。オレは建物の影に隠れてるし。

 

(次にその男にわたし達の場所を教えている存在についてです。こちらは足音や呼吸音など空気の微細振動音全てを聞き取り、わたし達の居場所を断定しています。つまり、逃れる術はありません。ですが、対抗策はすぐにクーの手から発動されます。ですので、こちらはまったく警戒する必要がありません)

 

 居場所を知られる、というのは、それだけで戦略的に不利になる。

 ただでさえ向こうの方が人数も多いしな……人数にまかせて囲まれでもしたら、それだけで終わりだ。

 

(もっとも、既に手遅れな可能性もありますが……)

 

 そんな、少しだけ沈んだ蒼莉さんの言葉に違和感を覚えながらも、走っている勢いを殺さぬよう、ビルに沿って左手に曲がる。

 

 そこはさっき、矢が飛んできた道と同じ、車一台分の広さしかない狭い道。でもさっきとは違い、この道に矢が飛んでくること無い。だから左手側にあるビルの入口を探しつつ、全力で駆け抜ければ良いだけ。

 ……そのはずだったのに、そうもいかなくなくなった。

 

 どうしてさっき、蒼莉さんが少しだけ沈んだような言葉を上げたのかが分かった。

 敵は既に、オレ達の分岐を知り、それぞれの対策を練った奴らを、それぞれの場所に配置し終えてるんだ。

 麻枝の前に現れた、あの男のように。

 

「俺の名は伊賀道久。悪いがココで、お前の足止めをさせてもらう」

 

 オレの前に現れた、この男のように。

 

「……お前一人で、オレを止められるのか?」

 

 紅先輩よりも高い身長――と言うより、高校生よりも高いであろう身長を誇り、リーゼントをキッチリとキめ、学ランの詰襟をちゃんと留めて着ている、静かな怒りを携えていそうな雰囲気のあるその男。

 そんな見た目に少しだけ怖気づきながらも、何とか強がって言葉を返す。

 

「一人じゃねぇっすよ」

 

 でも返事をしたのは目の前の男ではなかった。

 後ろから聞こえてきたその声に、前を警戒しながらもその方向に視線を向ける。

 

 道路を挟んだ向こう側。そこには学ランを羽織った一人の男子生徒がいた。

 短い髪をツンツンに立たせ、強がっている子供の様な雰囲気を感じさせる、中学生としては少しだけ身長の低い男子生徒が。

 

「僕と道久、二人であんたの足を止めさせてもらうっすよ」

 

 一車線分の距離をつめ、オレと同じ声変わりのしていない声で言ってくる。

 

「そういうことだ」

 

 そしてそれに同意する、目の前に立つ道久という名の男子生徒。

 

「二人でも、オレを止められるかな……?」

 

 怖いわけでもないのに、足が少しだけ震えている。

 緊張しているからかは知らないが、戦いに支障が出るソレを誤魔化すためにまた強がりを言い、妄想能力で包帯を身の丈はある薙刀に変化させる。

 

「お前の妄想能力は知っている」

「それで? だからと言って、対応策でもあるのか?」

「正直な話無いっすけど、でも二対一なら足止めは確実に出来るっすよ」

「足止め、か。よほど、ビルの中にいるオレの仲間を倒したいみたいだな、お前たち」

 

 道久と後ろの男子生徒の言葉に答えながら、道久に向かって薙刀を構える。

 別に二人を倒さなくたって良い。目の前のアイツさえ抜ければ、麻枝を助けに行けるのだから。

 

「当然。そうすれば、三対一でお前と戦うことが出来る。そうすればさすがのお前も、多勢に無勢だ」

「そういうことっすよ」

 

 ジャリッと、二人の構えた足音が、コンクリートを擦る音として前後から聞こえてくる。

 

「いやに、オレを高く評価してくれんだな」

「俺達は鳥居の強さを知っている。そしてお前は、彼女を倒した。たとえ彼女が手加減をしていようともな。そんなお前を高く評価するのは当然だろ?」

 

 鳥居が手加減していた、か……何となく分かってはいたけど、目の前に立つ他人に真っ向から言われると、明らかな真実の重みがあって複雑な気分になる。

 

「鳥居の強さを知っている……ってことは、お前たちが十一位の方の共闘者か」

 

 十一位と鳥居たちのチームは懇意だったって話だからな。

 

「それがどうした」

「別に。でもお前たちの仲間が、オレの仲間に倒される可能性は考慮してねぇのか?」

「はっ、それは無いっすね」

 

 オレの言葉を一笑に付したその言葉は後ろから。

 

「……なに?」

「だってあの子じゃ、アイツには勝てないっすもん」

 

 オレの疑問にその男は、ソレが決定事項とばっかりに、さも当然のように言ってきた。

 

「アイツの能力、あんたのお仲間さんと相性バッチリっすからね。どう足掻いても勝てないっすよ」