何か、特別な変化が欲しかった訳じゃない。

 

 異世界に飛ばされちゃうとか、

 特殊能力に目覚めちゃうとか、

 かわいい女の子が突然空から降ってきて同棲を始めちゃうとか、

 隠れてしていた親の借金が億単位になってて自分が売られそうになっちゃうとか、

 

 そんな非日常はいらなかった。

 

 でも、何か変化は欲しかった。

 

 刺激的な何か。

 

 例えば……彼女が出来るとか、そういうありきたりな刺激は、欲しかった。

 自分にとっては劇的で、でも周りから見たら極々普通な、そんな変化が欲しかった。

 

 だから神様――

 

「それじゃあ筧橙耶! これから私がいる限り、あなたを幸せになんてしてあげないからっ!」

 

 ――こんな羽の生えた金髪女、とっとと持って帰ってください。

 

「って言うか、もう二度と現れないでって言いましたよね!」

「いやぁ〜……もうちょっとだけあんたらを見ていたくてね。戻ってきちゃった」

「戻ってきちゃったじゃないですよ! ボクはあなたのせいで大切な幼馴染をですね――」

「まぁまぁ。そんな大声で怒鳴ると、また妹さんが来ちゃうよ?」

「くっ……!」

 

 それは確かに正論だったので、ボクは大人しく黙ることしか出来なかった。

 

「……正直さ、もうちょっとだけ、あなた達を見ていたいの。環境操作とか、神様だとか、そういうのを抜きにしてさ。……ダメ、かな?」

「うっ……! ……まぁ、反省しているようですし、別に構わないですけど……」

「やたっ」

「でも! 今度またボクを怒らせたら、次こそは許しませんからねっ!」

 

 べ、別に、ベッドの上に座ってこっちを上目遣いで見てきたり、あまつさえ胸元を強調してきたから許可した訳じゃないんだからなっ!

 

「おっ、ツンデレ」

「……追い出しますよ?」

「分かった分かった。ゴメンって」

 

 ……はぁ……確かに何か変化は欲しいって言ったけどさ……まさか神様に付き纏われることになるなんてな……。

 しかもこのこと以外は極々普通の日常な訳で……これじゃあ刺激的な日常は無いに等しいかな……付き纏うってことは、誰かと付き合えないままだってことだし……。

 

「はぁ……」

「何でため息吐いてるのよ」

「……色々とイヤなことが多いからですよ」

「ま、神様からのお達し事ってことで、諦めなさい」

「神様からのお達し事……ねぇ」

 

 まぁ、神からの言葉が幸せへの道ばかりじゃないところを見ると、あながち間違いじゃないのかもな……。

 

 疫病神、ってのもいる訳だし。今目の前に。

 

「……なに?」

「別に」

 

 こうなると、ボクは何て贅沢なことを望んでいたのだろうと思う。

 

 やっぱ日常が一番だったよな、うん。

 

「別にって何よ、別にって」

「本当に何も無いんですから、そんなに絡まないで下さいって」

 

 こんな五月蝿い神様が付き纏うぐらいだったら、何も無い、あの頃の方が良かったのだから。